要 旨
漆は天然の塗料として物の保護という役割から、さらに幾度となく塗り重ねることによって、そのよどみある光沢と深みある美しさを現出させる材料として古くから用いられてきました。
平安時代にはすでに「蒔絵」とよばれる漆塗りの代表的な加飾技法が確立し、それとともに後世、多種多様な意匠が生み出されました。これらは崇高なる仏殿の荘厳品や経箱などにも用いられ尊ばれてきました。
中世から近世にかけては、寺院などで使用される日常生活用具にも漆器品が多用されるようになり、特に高野山で使用された漆器の多くは朱塗りで、それらは後に「根来塗」と呼ばれるようになりました。根来塗のキュウ漆法は、蒔絵などの漆器に比べると、きわめて素朴であることから非常に堅牢で耐久性に富んでいます。
さらにその使用頻度から美しい擦れ文様が現われた、味わい深い漆器も少なからず伝わっています。
本企画展では、初公開になる漆器頬を含め、各種の漆工芸を陳列し、漆工の美の一端を展観しようとするものであります。
この企画展のために、貴重な漆器を御出陳下さいました御所蔵の皆様に心より御礼申し上げます。
←朱塗角切折敷 西南院
鎌倉時代(正中元年1324)
漆工技法用語解説
〔蒔絵〕
漆で文様を措いた上に、金銀粉を蒔き付ける法。基本的技法として、次の三種がある。
@平蒔絵・…文様部分に金銀粉を蒔き、その部分のみ漆を塗り光沢を出す。
A高蒔絵‥‥適当な高さに文様を盛り上げて、その上に蒔絵を施す。
B研出蒔絵…・粉を蒔き付けて乾かし、全面に漆を塗って研ぎ出す。
応用技法として次の五種がある。
@描割り・・・・細線部だけを残して蒔き、溝を作る法。
A付描き…・粘稠性の強い絵漆で細線を描いて蒔いた線。
B針描き…・蒔絵が適度に乾いたところを引掻いて細い線を表す法。
C蒔暈し…・濃い所から次第に薄く蒔いて暈す法。
D肉合研出蒔絵…・高蒔絵に研出蒔絵を併用して傾斜を表す法。
〔地蒔〕
模様以外の空間に金銀粉を蒔く法。基本的技法として、次の四種がある。
@平塵(塵地)…・鑢で地金を下したままの鑢粉を蒔き、漆を塗って研ぎ出す。
A沃懸地…・金銀の粉を一面、あるいは一部に蒔き付けたもの。
B平目地…・鑢粉を薄く伸ばした平目粉を蒔いたもの。
C梨地・…平目粉を更に薄く伸ばして細かくした梨地粉を蒔き、梨地漆で覆い粉を研ぎ出さずに透かして見せる法。